台湾自転車事情2009その2

【mixi日記 及び 旧ブログ から転載したものです】

その1」からの続き

 台北ショーについては、今後雑誌等でも個々の商品について報じられると思いますので、ここからは台湾の自転車事情について簡単に述べたいと思います。

 「世界の自転車工場」台湾をそう表現することがあります。いまや欧米や日本ブランドへのOEM供給も含め、スポーツ自転車の過半が台湾で造られていることはよく知られています。しかし、かつて「世界の自転車工場」という表現は日本を指す言葉でした。台湾はコスト競争力を最大の武器として、企業の努力と政府の後押しを加えて日本から世界の自転車工場の座を奪ったのです。

 現在では台湾の自転車産業は、日本での自動車(四輪車)産業と同じ位、重要視されている産業です。国策的な後押しもかなり強力なもので、たとえばこの台北自転車ショーは、政府の外郭団体である中華民國對外貿易發展協會(TAITRA、台湾貿易センター)の主催によるものです。日本で言えば公的機関である日本貿易振興機構(ジェトロ)がサイクルショーを主催するようなものでしょうか。ともあれ、国をあげて自転車産業の輸入に力を入れているのです。

 台湾の出展企業にはTAITRAから金銭的なサポートもあり、海外からバイヤーを招待すればホテルや飲食の費用に一定の補助を受けられるシステムが、昨年から導入されているようです(ただし、今年は昨年よりは補助金額が減らされ、宿泊ホテルの指定や人数の制限など、条件も厳しくなったようです)。ショー会場には海外バイヤー向けに軽食やドリンクの無料サービスがあったり、無線LANやPCが無料で利用できるサービスが提供されています。

 また、海外バイヤーを招いたレセプションパーティーも毎年開かれていますが、無料でバイキング形式の食事が振舞われ、ステージで京劇やバンド演奏などが催されています。昨年は会場が変わったこともあるのでしょうが、会場のすぐそばで花火が打ち上げられ、びっくりさせられました。今年はパーティーに参加しなかったので詳しいことはわかりませんが、今年も盛大に催されたことでしょう。

 日本と比較すると、自転車産業にこういったサポートがあることは驚きですが、「産業」としての自転車への後押しだけでなく、レジャーやスポーツとしての自転車にも強力な後押しがされているようです。私は台北近辺のことしかわかりませんが、サイクリングロードの整備が年々進み、地下鉄(MRT)への自転車持込が可能になる(土日祝日)など、台湾人自身が自転車を楽しむためのインフラが整備されつつあります。近年は台北ショーにあわせてステージロードレース「ツール・ド・台湾」が催され、競技としての自転車も周知されつつあるようです。

 ほんの10年ほど前には、台北市内では自転車の姿は少なく、ましてやスポーツバイクの姿を見かけることはほとんどありませんでした。かといって四輪自動車が多かったわけではなく、道路を占領しているのはもっぱら二輪のスクーターでした。当時の庶民の足はもっぱらスクーターで、家族全員が乗車した3人、4人乗りをよく見かけました。

 自転車に乗っているのはまだスクーターに乗れない(買えない?)若者や、荷運び用の実用車がほとんど(スクーターより積載量が多くてトラックより安いから?)。いい年をした大人はスクーターに乗り、金持ちになれば自動車に乗り換えという構図だったようです。

 ところが近年はスクーターの数がかなり減りました。代わりに増えたのが四輪自動車です。この10年ほどで、庶民、それも家族の移動手段が、二輪から四輪に移行したようで、かつての3人、4人乗りはまず見かけなくなりました。なお、同行者からは「昨年よりスクーターの数が増えているのでは」との意見もあり、景気低迷の影響で、維持費の安いスクーターが見直されている可能性はあります。

 そんな交通事情の中で、スポーツバイク(自転車)の姿が次第に増えてきています。台北の街を歩いているとちょくちょくMTBやクロスバイクを見かけます。ロードバイクもたまに走っています。

 一般車に関しても10年前と比べると少し増えているように思われます。以前と比較すると荷運び用の実用車はほとんど見かけることがなくなり、より軽快な自転車(いわゆるママチャリ)の比率が高まっています。ただし、リアキャリアはほぼ100%装着されており、相変わらず荷運びの手段としての役割を求められているようです。

 いずれにせよ単なる移動や運搬の手段から、レジャーやスポーツの手段に移行しつつあるのは日本と同じです。まだまだ東京や大阪のような日本の都市に比べれば、スポーツバイクを見かける機会は少なく、グレードも低中級グレードの車種が多いの確かです。

 しかしながら、業者向けのショーだった台北ショーにも、一般ユーザーらしき来場者の数が年々増えているのは先程述べたとおりです。主催者発表の昨年の国内来場者が48,288人ですから、台湾人口(約2290万人)の約0.21%が来場したことになります。日本のサイクルモードショーの昨年の来場者数(57,607人)と日本人口(12776万人)から算出した数値0.045%と比較すると、人口あたりの来場者は何と日本の4.6倍以上ということになります。

 もちろん日台の両ショーのカウント方法は同一ではないでしょうし、来場者数には多少の水増し(再入場者の重複カウントなど)があるかもしれません。また、来場者に占める業者の割合や、バイクスポーツ愛好者の中で来場する比率、といった条件も異なるので単純に比較はできません。しかしながら、それにしても4.6倍という差は大きく、バイクスポーツの普及率は日本を上回るという見方もできます。

 こうして、「自転車ハードウェアの製造」産業に加えて、「バイクスポーツへの理解」というソフトウェア面でも格段の進歩を遂げた台湾。その硬軟あわせたパワーは特に高級バイク、スポーツバイクの分野で世界のトレンドをリードする位置にあることは間違いありません。近年、自転車関連業者の合従連衡が盛んですが、欧米や日本の老舗ブランドが買収され、いつのまにか台湾資本になっているケースも多々あります。

 表向きは本社を欧米に置いているケースも多いので、実態が分かりにくいのですが、一例を上げれば富士、サンツアー、丹下、SRAM(及びその傘下のROCKSHOX等)、Sturmey Archer・・・といった日本や欧米発祥のブランドは、日本人や欧米人が関わっていたり、開発拠点を欧米に置いているケースも多いにせよ、資本的に台湾企業や、その傘下になっているものと思われます。例として上げたもの以外にも、展示を見ているとそれらしいブランドが多数あるのですが、確かなことがわかりませんので具体例は差し控えます。

 このように、スポーツバイクのトレンドリーダーに成長し、その影響力を年々高めつつある台湾ですが、もちろん懸念材料もあります。何より、すぐそばに大陸中国という強力な価格競争力を持ったライバルが育ちつつあります。

 今のところは、純粋な中国メーカーは企画開発力で台湾に匹敵する業者は非常に少なく、コピー商品が多いのですが、年々品質と開発力を高めています。すでに、日本で販売される一般車(ママチャリ、子供車)の多くは中国製になっていることはご承知の通りです。スポーツバイク関連でも、低価格帯商品では中国製の比率がかなり高まっています。

 欧米や日本、そしてもちろん台湾の多くの自転車関連メーカーが、中国に工場を置いていることもあって、それらの工場に勤める中国人がノウハウを吸収して独立したり、パーツ納入を通じて現地企業が技術を修得したり、という動きは当然起きているでしょう。

 先進地域の企業が人件費などが低い地域に生産拠点を移し、やがてその地域の企業が力をつけて本家をしのぐ。製造業のそんな流れは、止めることが困難です。かつて、日本の自転車産業も、欧米から自転車と部品の製造を引き受け、やがて台湾に製造の主体を奪われました。自転車製造の中心地が台湾から、いずれ中国(や他の国)に移ることも自然な流れで、「全体として」この流れを止めることはできないでしょう。

 とは言え、個々の企業に関して言えば、欧米や日本にも有力メーカーが多数残っています。製造の主体は人件費などが低い地域に移すとしても、企画開発力や販売力に磨きをかければ、シマノのように世界をリードする立場に立つことも可能です。言い換えれば、ハードウェア(製造)に関しては流出は避けられませんが、ソフトウェア(企画・開発)に関しては市場に密着している方が有利ということです。

 台湾がスポーツバイク産業で主導的な立場を守り続けるためには、製造だけでなく企画・開発力をさらに高めること。そのためには、台湾人自身が実際にスポーツバイクに乗る文化を育てていくことが、重要なカギだと私は考えます。

 先に述べたように、台湾では国を挙げてバイクスポーツに親しむインフラ造りが進んでします。「世界の自転車工場」の地位はいずれ明け渡さざるを得ないでしょうが、「バイクトレンド発信基地」として生き残ることは、まだ可能性が残されていると思います。

その3(会場風景)」に続く

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